医療コンサルティングSの高野です。
過去100医院以上のアドバイスを行いました。そのコンサルティングの現場から皆様にとって有益な情報を提供できればと思います。
さて、歯科クリニック経営において、スタッフの確保は大きな課題です。
「歯科衛生士の募集をかけても、一人も採用できません!」
「採用広告にお金をかけているけど応募がきません!」
こんな院長の声はよく聞きます。
歯科医院は人材が必要。一人では何もできません。
患者さんの電話対応、患者さんのメンテナンス、歯科クリニック内の清掃など、対応いただけるスタッフに感謝しなくてはなりません。
スタッフと協力し、連携を取り始めて円滑な診療はできるのです。
人は財産、人材は人財なりです。
人材確保のために今必要なことは、今のスタッフを辞めさせないこと。
新しい人材をドンドン採用する!だけではダメ。
次々やめてしまうような職場環境であれば、どんなに新しい人を採用しても意味がない。
底の空いたバケツで水をくむ状態を改善し、辞めない環境を作らなければ、募集をかけても無駄です。
人が常にやめるのは、何か原因があります。その原因を改善する。
これは忘れないでください。
歯科医院では、どうしても退職者が出ます。
女性スタッフがメインの職場では、生活環境の変化により退職しなくてはならないスタッフがいます。
結婚、出産、育児、介護など、女性に負担がかかる人生のイベント、夫の転勤なども退職のきっかけです。
これは止められません。
ただ、致し方ない理由以外に、人が辞める場合はどうか?
・忙しくても医師は治療以外何もしてくれない
・有給休暇を取れと言われるが、全然取れない
・残業が毎日多い
・無駄な作業が多く、DX化されていない
・スタッフ間の関係が円滑ではない
などなど、考えられる原因は多数あります。
これらの原因を改善し、まずはスタッフが定着する歯科医院を作っていただきたいと思います。
まあ、退職する時の理由は止められないように、結婚や介護などを理由にしますので、辞めるスタッフの本当の気持ちを汲んでいただきたいのです。
状況を把握し、離職原因の改善をする。これはスタートです。
この点を踏まえ、採用について取るべき手法を紹介したいと思います。
1.採用条件は大きく変わった!急激な給与水準上昇に対応
採用できない、募集が来ないという状況下でまず求人広告上の給与を見てください。
給与条件は大きく変わっています。
賃金構造基本統計調査では、歯科医師、歯科衛生士の給与が調査されています。
この統計結果では、給与水準の上昇が見て取れます。
みなさんの地域にそのまま該当する訳ではありませんが、全国統計数値上は出ています。
※都道府県別のデータを参考数値として掲載しておりますので、そちらもご覧ください。
COVID-19の流行以降、人件費は特に上昇しています。
2020年と2024年の比較で、歯科医師は44%、歯科衛生士は13%の賃金上昇がデータとして見られます。
※厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
10年ほど前は、歯科衛生士の給与を25万円以上と掲載すれば、確実に応募がありました。今はその水準が、28万円以上になってきています。
ここ数年で給与は急激に上昇しています。
このトレンドに乗り損ねれば、誰も応募にはきません。
なお、地域によって金額は変わります。以下の表を参照してください。この数値は、統計データと現在の求人に掲載されている募集給与をベースに作っています。
【参考資料】都道府県別給与水準(歯科衛生士) (単位:万円)
※厚生労働省「賃金構造基本統計調査」をベースに求人サイト掲載の給与水準を加味し株式会社医療コンサルティングSが算出しています。調査時期、エリアにより変動する点はご了承ください。
募集する給与を上げると、現在のスタッフの給与も見直しが必要で、総人件費が上昇しますが、求人広告に掲載する給与の水準アップは採用する際に必須なのです。
2.給与以外で気を付けるべき雇用条件
また、今の採用トレンドは、安定です。
成長する職場、役割を与えられる職場が人気の時代もありましたでが、今は、福利厚生がしっかりしている、有休休暇をストレスなく取れる歯科医院が人気。
残業は当たり前、成長のためには自己研鑽として時間を使うべきだという歯科医院の場合、かなり給与を高く設定しないと人材は採用できません。
歯科衛生士学校でも社会保険が働く場所を選択するための重要な条件であると指導しています。
社会保険の4つをしっかりチェックしなさいときつく言われているのです。
健康保険の整備、厚生年金の加入もコストがかかりますが、必須の時代です。
賞与についても変化があります。
ある歯科クリニックの院長のコンサルティングの場で、いかに賞与が重要であるのかについて指導しました。
【賞与改善の事例】
このクリニックは、開業20年ですが、賞与は儲かったら出すものだという考え方で、開業以来ボーナスを支給していません。
今の時代、働く人は賞与は給与と同じ安定した報酬であると認識されています。ボーナスが出ないなんて、信じられないという方が増えています。
その歯科医の院長先生には、賞与を出さないという組織では採用が難しいことを何度も伝えました。
10年前は全く響いていませんでした。
やっとその必要性に気づき、賞与支給を求人広告に記載することができたのです。
このような考え方を持っている院長はまだいます。
ボーナスは、儲かったら出すもの、うちの歯科医院は儲かっていないから出さなくていいと、真顔で言われます。もう昭和はとっくに終わって時代は令和。なのに、そのような感覚です。
こんな歯科医院では人は採用されませんし、働いている人はかわいそうですね。
まずは雇用条件を見直してください。
特に以下を見直しましょう
・歯科医師 月給80~100万円 歯科衛生士 28万円以上 の相場になりつつあります。
・4つの社会保障は加入必須です
・シフト制なのか、週休2日なのか、就業時間は何時なのかなどを明確に記載しましょう。
・有休がとれる環境は職場選びに大きな影響を与えます
まずは、他のクリニックの募集条件を見ましょう。サイトで確認できますので、どこの歯科医院がどんな条件で出しているかを把握し、広告内容に反映させてください。
3.受付の採用に苦しむ歯科クリニック増加中
歯科医院の受付業務の採用は激戦です。
資格なしでも採用できる職種なのですが、一般企業との採用競争に入っています。
そのため募集をかけても全く反応なしという歯科医院が多いです。
根本的に違っているのが給与面です。
2010年頃は、月給16万円でも採用ができましたが、今は20~25万円ほど。
ただ20万円ですと、他の企業を選ぶ方も多くなります。
残業がなく、福利厚生がしっかりしていて、土日が休日の一般企業の仕事を選ぶわけです。
一般企業ではなく、歯科医院で働きたいという方は、何かしらの動機がある方になりますので、元々対象は少ないですので、激戦の中、給与面での比較は大きいです。
他のクリニックに負けない最低限の給与提示は必要です。
受付・歯科助手の採用の際に、気をつけていただきたいのが、マニュアルの整備です。
若手世代は、仕事をやるためにマニュアルはあるはずという認識でいます。
職場にマニュアルがないと驚くスタッフは多いです。
募集広告の中に記載が必要ではないですが、面接時の説明の中で、スタッフ用のマニュアルがあり、それを見れば仕事は覚えられるという安心感を作った方が採用確率は上がります。
また、紙カルテや、紙を使った管理をしている歯科医院も避けられつつあります。
デジタル化が進み、予約を紙で管理している歯科医院も少なくなりましたが、採用対策として予約システムや電子カルテの導入も検討いただければと思います。
業務のデジタル化は求人確保にも効果的です。
他には、歯科医院の良さ、強みを伝えること。
まず、自分の歯科医院の良さや、どんな人材を採用したいのかをリストアップし、採用広告を見る人に訴えるものは何かを考えてください。
普通に広告を出して、普通に応募が来る時代はとうに終わっています。
もう紙媒体もなくなり、ネットで情報は溢れています。
候補者に選んでもらえる歯科医院となるために、職場の魅力を伝えていかねばなりません。
受付・歯科助手の採用の競争相手は一般企業です。医療業界の考え方ではなかなか採用できません。色々な工夫をする必要があります。
【参考資料】受付・歯科助手 募集給与の推移
※医療コンサルティングS 調査
4.採用募集をどう行うのか?媒体は?SNS?
さて、採用するとしても、どの媒体を選んでいいのでしょう。
採用媒体は多数あります。
① 求人ポータルサイト(掲載型):Indeed、とらばーゆ、求人ボックス、GUPPY 等
② 成果報酬型サイト(成功報酬):ジョブメドレー、シカカラ、クオキャリア 等
③ 専門職エージェント(人材紹介型):ファーストナビ、メディカルネット、デンタルスタイル 等
④ ハローワーク/公的サービス:ハローワーク、地域ジョブセンター 等
⑤ 自社媒体・オウンドメディア:自院ホームページ、採用LP、Googleしごと検索 等
⑥ SNS媒体(広報・集客兼用):Instagram、TikTok、X等
⑦ 紙媒体・地域密着広告:地域情報誌、新聞折込、ポスティング 等
⑧ 紹介・リファラル採用:スタッフ紹介/患者家族紹介 等
以前は、① 求人ポータルサイト(掲載型)の利用がメインでしたが、資格者の採用には、② 成果報酬型サイト(成功報酬)や③ 専門職エージェント(人材紹介型)が中心になっています。
成果報酬は、年収の15~40%、各社で違います。資格の種類でも違い、歯科医師が高く、25~35%くらいでしょうか。有資格者を採用するためには、それなりの額がかかりますが、募集広告を打って全く反応がないよりも採用決定後に手数料を支払う方が割安になるかもしれません。
歯科医院の規模が大きく、年間複数名の採用を行うのであれば、⑤ 自社媒体・オウンドメディアがお勧めです。これは、⑥ SNS媒体(広報・集客兼用)との連動が必要となりますが、コストは下がります。
Z世代はSNSに親しんでおり、Instagram、TikTokなどは毎日見ています。歯科医院の日常や、歯科衛生士の仕事、受付の仕事などを掲載することで、どんな歯科医院なのかが伝わり、応募時の動機につながります。
最終的に自分の求人サイトに誘導します。歯科医院で単独の求人LP(ランディングページ)を作成します。
そもそも、求人LPというのは何でしょうか?
求人LPとは、歯科医院の「採用専用ページ」のことです。
Indeedやジョブメドレーなどの媒体では伝えきれない「人」「空気感」「こだわり」を、じっくり丁寧に伝えることができます。
求人LPの基本構成としては以下のようなものになります。
【基本構成】
① ヒーロービジュアル(トップ画像+キャッチコピー)
LPの最初の数秒で「ここ、いいかも」と思ってもらえるかが勝負です。
明るくて自然なスタッフ写真に、短いキャッチコピーを添えましょう。
例:「笑顔が絶えない、地域密着の歯科医院です」
② 院長メッセージ(人柄と想いを伝える)
どんなに条件が良くても、院長の人柄に不安があると応募にはつながりません。
短くてもいいので、「どんな想いで医院を運営しているか」「スタッフにどんな風に働いてほしいか」を書きましょう。
ポイント:顔写真を掲載した方が効果的。写真は朗らかなもので。無理に笑顔でなくてもいいです。
③ スタッフの声・インタビュー
スタッフのリアルな声は、最強の説得力。
「未経験から始めました」「子育てしながら働いています」など、応募者が自分を重ねられる内容が理想です。
動画を見ていただく形でもいいです。スタッフ間の仲の良さや雰囲気が伝えてください。
④ 医院の魅力・制度紹介
・週休2日制
・残業ほぼなし
・教育マニュアルあり
・臨床検討勉強会や資格支援制度
など、「働きやすさ」や「安心できる環境」を伝えます。
⑤ 1日の流れ・スケジュール例
応募者は「どんな1日を過ごすのか?」をイメージしたがっています。
文字とイラストや表で、8:30〜18:00までの流れを見せましょう。
残業がない・昼休憩がしっかりあるなどはアピールポイントになります。
⑥ 募集要項(職種別に明記)
・給与(固定残業代の有無も記載)
・勤務時間・休日
・待遇・福利厚生
・応募資格(未経験OK、ブランク歓迎など)
など、職種ごとに整理して掲載すると見やすくなります。
⑦ よくある質問(Q&A)
Q. 見学だけでもOKですか?
Q. 子育て中ですが大丈夫でしょうか?
Q. どんな年齢層のスタッフが働いていますか?」
など、応募前の不安をここで解消しておくと応募率が上がります。
求人LPは、応募するというよりは、医院見学への誘導などでハードルを下げてください。
いきなり面接という形よりも、まずは見学に来ていただと募集数が増えます。
歯科医院の現場を見学するという手法は今も効果的です。
5. 採用できない歯科医院の特徴
このように採用のトレンドは変わってきつつあります。
最後に、採用で苦しむ歯科医院の特徴を挙げたいと思います。
1)院長だけが採用に関わっている
・院長だけが採用媒体を選定、面接も院長だけという歯科医院にはあまり応募がきません。
・面接にスタッフを同席させたり、採用広告を見た感想を聞き、それを反映させたり、周囲の人の意見を聞いてください。ただ、そのまま意見を取り入れられない部分もありますので、バランスを取りながら進めてください
2)応募者への返信が遅い
・インターネットを使った募集を行うため、応募者への返信が遅いと採用できなくなります。
即レスポンスを返せるように、メールの文面はあらかじめ作成しておくなどの工夫が必要です。
・返信が1週間後という歯科医院も多いです。忙しいから仕方ないのですが、受付スタッフなどと連携を取り、即レスを徹底してください。
3)実際の広告の内容と現実との乖離
・採用広告ですので、多少の誇張はあると思います。ただ、残業なしと打ち出しながら実際は残業ばかりという乖離があれば、応募者にも伝わります。歯科医院の今の状況を振り返りながら採用活動をしていただきたいと思います。
4) 採用後の教育・定着施策がない
・OJTのみでマニュアルなしという教育環境が整備されていない歯科医院では採用が難しい時代です。
・すべての管理を紙でやっている、レセコン、予約システムなどのソフトが使いにくいなど、現場で働く人の環境整備ができていない歯科医院では採用は難しくなります。
6.最後に
歯科クリニックでの採用人数は少なく、退職者が出てから中途採用で募集するという流れが一般的であり、他業種で行うような長期的な採用戦略を取り辛く、場当たり的な採用活動に陥ります。
そのため、結果を出すことが難しいという実態があります。
採用コストは上昇傾向にあり、紹介料率の上昇、広告費の上昇など、一人あたりの採用費用は上昇。またインターネットの普及により採用活動は短期決戦になっています。
院長が片手間で採用活動を行うという時代ではなく、医院スタッフとの協力、採用支援企業などと連携していく風潮です。
ただ、一番重要なことはスタッフが辞めたくなるような歯科医院から脱却すること。
何も教えない、何も準備しない、非効率なままの診療システムを続けていけば、医院全体の生産性が低下し、離職率も増えます。
離職率が高いクリニックでの採用活動は成功しないのです。
紙に頼った歯科医院運営では働きたいとは感じにくく、予約システムなどITシステム導入は必須です。
採用活動を通じて医院全体の経営を見直し、働きたいと思える魅力あふれる歯科医院となっていただきたいと思います。