歯科医院専門コンサルタントの高野です 。 これまで 100 院以上の経営改善に携わってきました。今回は歯科医院の改善事例をご紹介させていただきます。
歯科医院の経営相談で、非常によくいただくテーマがあります。
それが、「自費診療が増えない」という悩みです。
インプラント、セラミック、矯正、審美歯科などなど。
近年、多くの歯科医院が自費診療に力を入れるようになりました。しかし実際には、
・提案しても成約しない
・自費率は伸びない
・患者単価が上がらない
・保険診療ばかりになる
という課題を抱えている医院は少なくありません。
その際、多くの院長先生は、
「説明力が足りないのではないか」
「もっとカウンセリング技術が必要なのではないか」
「スタッフ教育が不足しているのではないか」
と考えます。
もちろんそれらも重要です。
しかし、実際のコンサルティング現場では、もっと根本的な問題が見つかることがあります。
それは、「院長が説明する時間そのものが存在していない」という問題です。
今回は、実際に組織改善によって院長の稼働を変え、自費率を10%から35%まで改善した歯科医院の事例をご紹介したいと思います。
「説明したいのに、時間がない」
この医院は地方都市にある歯科医院でした。ユニット4台、歯科医師は院長のみの1名、歯科衛生士2名、スタッフ合計5名。年間の売上4,500万円くらい。中堅の歯科医院です。
開院後、15年地元の患者さんからの信頼も厚く、患者数は一定数確保できている、しかし院長には長年の悩みがありました。
それが、「自費診療が増えない」という問題です。
自費率は約10%。
セラミックやインプラントの提案をしても、多くの患者が保険診療を選択していました。
院長自身は非常に勉強熱心。学会参加も積極的で、設備投資も行っていました。技術的にも十分なレベルでした。
しかし、自費率はアップしていかない。
では、どうすればいいのか?
当初、院長は「もっと説明を丁寧にしないといけない」と考えていました。
しかし実際に現場を分析すると、問題は別の場所にありました。
最大の問題は「院長が忙しすぎる」ことでした。
医院の診療フローを見ていくと、院長は常に動き続けています。
・治療
・急患対応
・スタッフ確認
・レントゲンチェック
・会計確認
・技工指示
診療時間中、ほとんど休む時間がありません。
結果として、自費診療の説明はどうなっていたか。
診療チェアで数分、
・「こちらが保険です」
・「こちらがセラミックです」
・「費用は○万円です」
という説明だけになっていました。
しかし患者さんからすると、
・なぜ必要なのか
・何が違うのか
・将来どう変わるのか
が十分理解できていません。
つまり問題は、「説明力不足ではなく、説明時間不足」だったのです。
そしてさらに重要だったのは、「院長だけが説明する組織になっていた」ことでした。
自費率改善の前に「院長改革」が必要だった
多くの歯科医院では、院長が医院のすべてを抱え込んでいます。
・治療
・経営
・スタッフ管理
・説明
・クレーム対応
・レセプトチェック
これでは、院長の時間が足りなくなるのは当然です。
しかし、自費診療で最も重要なのは、「院長が患者と向き合う時間」です。
インプラントでもセラミックでも、患者が最終的に決める理由は、「この先生に任せたい」と思えるかどうかです。
つまり、自費率改善の本質は、「院長の時間をどう作るか」にあります。
そこで、この医院ではまず「組織改善」から始めました。
改革① 「院長しかできない仕事」を整理した
最初に行ったのは、院長業務の棚卸し。すると驚くほど多くの業務を、院長自身の仕事にしていました。
例えば、
・アポイント調整
・会計確認
・在庫確認
・スタッフへの細かな指示
など、本来スタッフへ委譲できる業務まで院長が抱えていたのです。
そこでまず、「院長しかできない仕事」を明確化しました。
結果として残ったのは、
・治療方針決定
・高度治療
・カウンセリング
・最終説明
つまり、院長は「売上を作る仕事」に集中すべきだったのです。
同時に業務分担の整理を実施。
受付、助手、歯科衛生士、ドクターが受け持っている現在の業務を整理し、役割を変更していきました。
特に重要な役割を、歯科衛生士に担っていただく体制を作り直しました。
改革② 衛生士主導型へ変更した
歯科衛生士の役割変更し、今まで以上に歯科衛生士の方に重要な役割を分担しました。
それまでは歯科衛生士は、クリーニングや補助業務が中心でした。
しかしここを大きく変えました。
歯科衛生士が、予防説明、初期カウンセリング、メンテナンス提案を行う体制に変更。
例えば、なぜ再治療が起きるのか?、銀歯とセラミックの違い、歯周病のリスクなどを、歯科衛生士が日常会話の中で説明するようにしました。
すると患者側でも、「もっと詳しく聞いてみたい」という状態になります。
ここで初めて院長が説明に入ります。
つまり、「歯科衛生士 から 院長 へ」という流れを作ったことで、院長の時間の質が大きく改善、時間短縮にもつながったのです。
同時に歯科衛生士は患者カウンセリングとしての役割を担うために、カウンセリング研修を受けていただきました。
患者の思いを受け止め、解決に向けた治療内容や提案を、患者ごとの症状や、年齢、職業、性格などに応じて、行ったのです。
歯科衛生士の方のスキルアップとともに、患者満足度も上がりました。
改革③ カウンセリング時間を「予約化」した
さらに大きかったのが、「カウンセリング時間を予約枠として確保したこと」。
以前は診療の合間に説明していました。しかしそれでは、院長も焦りますし、患者も十分理解できません。
そこで、「相談(カウンセリング)時間」を正式に確保しました。
● CT説明
● セラミック相談
● 治療比較
落ち着いて話せるようにしたのです。
これは大きな変化でした。
患者は「売り込まれている」のではなく、「相談に乗ってもらっている」と感じるようになったのです。
カウンセリング時間の予約化は取り入れている歯科医院も多いのですが、この時間は何度も見直してください。
時間が長すぎるケースもあります。
ご自身の説明スキルも鑑み、カウンセリング時間を設定してください。
また、こうした予約管理や患者情報の共有、日々の事務作業などを
デジタルツールを活用してシステム化(DX化)していくことも重要です。
アナログな作業を徹底的に排除し、仕組みとして効率化を進めることで、スタッフの負担を減らし、
医院全体の生産性をさらに高めることができます。
こうした「人の役割分担」と「システムの構築」という両輪の改革を続けた結果、
医院の業績と環境は劇的に変化しました。
まず、自費率は「10% → 35%」と、実に3.5倍にまで跳ね上がりました。
セラミック症例やインプラントの件数が増加し、患者単価も上昇。
それに伴い、
医院全体の総売上も1.3倍以上に大きく成長を遂げています。
これは、単に「自費の割合が増えた」という部分的な変化ではありません。
医院の経営基盤そのものが底上げされ、
業績自体がワンステージ上のレベルへと大きく躍進したことを意味しています。
しかし本当に大きかったのは、数字以上の変化である「院長の働き方そのもの」でした。
以前の院長は、文字通り「ずっと現場を走り回っている」状態で、常に時間に追われていました。
しかし現在は、無駄な雑務やアナログな作業から解放され、
治療・説明・そして本来あるべき経営判断に100%集中できています。
つまり、院長が「院長にしかできない本来の仕事」に専念できる環境が整ったのです。
自費率改善というと、どうしてもトーク、クロージング、セールスといった「テクニック」ばかりが注目されがちです。
しかし実際には、自費率が低い医院の多くは、テクニック不足ではなく
「院長の時間設計が崩れてしまっている」ケースが非常に多いのです。
● 院長が忙しすぎて心に余裕がない
● 患者様とじっくり話す説明時間がない
● スタッフが十分に機能しておらず、属人的な業務が多い
● アナログな作業が多く、組織として患者様を支える体制ができていない
この状態では、どれだけ院長の技術力やカウンセリング力が高くても、自費は絶対に伸びません。
逆に言えば、
1. 院長の役割整理とスタッフへの業務委譲
2. デジタルツールの導入による業務のシステム化(DX化)
3. カウンセリング設計の標準化
4. 組織的な効率分業体制の確立
これらが噛み合うことで、医院は文字通り生まれ変わります。
つまり、自費率改善の本質とは、小手先のテクニックではなく「組織改善」と「システム化(DX化)」そのものなのです。
そしてその中心にあるのが、
「院長が患者様と向き合う時間を取り戻すこと」に他なりません。
まずは、ご自身の業務の「棚卸と分析」から始めてみてください。
その仕事は、本当に院長であるあなたがやらなければならない業務でしょうか。
院長が本来注力すべき「患者様としっかり向き合い、質の高いカウンセリングを行う時間」を十分に確保できるようになれば、
患者様の納得感と信頼感は格段に高まります。
結果として、
自費診療の成約率は自然と向上し、ひいては労働時間を増やすことなく、
医院全体の業績成長へと直結していくのです。
「組織とシステムの改善による、持続可能な売上アップ」を実現するために。
まずはその土台となる自己分析と業務の棚卸から、ぜひ第一歩を踏み出してみませんか。